真夏にプリン

4章「悪魔を哀れむ歌」

(1)「学校指定カバン」


僕もキノシタも無言のまま3杯目の生ビールを飲み始めた。
そんなに酒は強い方じゃないが暑くて生ビールが美味しく感じてピッチが早くなる。

僕の隣でキノシタはラッキーストライクをくわえながら携帯をいじっている。
キノシタもそんなにお酒は強い方じゃないようで頬が赤らんでいる。

よくよく考えると、このキノシタって奴も良い奴だ。

たいして親しくもない人間を心配して行動して、
終いにはこのよくわかんないバーで僕と一緒に酒を飲んでいる。

まるで青春映画みたいだ。
酔ってきたせいかそれも悪くないかも。

でもBGMはストーンズじゃない方が合うなぁ。

ぼんやりとそんなことを考えていると店の入口の扉が開いて、
僕とキノシタは同時にゆっくりと視線を入口に向けた。

入ってきたのは『彼女』や男と同じ歳くらいの女だった。

ふわふわのスカートでCanCamふうとでも例えればよいのか、
どこにでもいそうな感じの女の人。

バッグはお決まりのヴィトン。
(いつも思うのだがこれだけ氾濫するとヴィトンって学校指定カバンにしか見えない)

僕の席の隣にその学校指定カバンを置いて、
隣の隣のイスに座り親しげにカウンターの男と話始めた。

こういう女って何か苦手なんだよなぁなんて思っていると、
隣のキノシタも不機嫌そうな顔をしてラッキーストライクに火をつけた。

「ねぇ、ナオキのとこにも届いた?」

女は甘えた声で男に話しかける。

「なにが?」

男の無愛想な返事からすると男もあまりこの女の人を良く思っていないかも知れない。
もちろん僕の勝手な想像なんだけど。

「ゴトウちゃんからのメール!」

僕もキノシタも男もその一言で一斉に女に視線を向けた。

「な、なに?」

スピーカーから流れるストーンズの曲が遠くに感じた。