『彼女』の部屋のインターホンを押す。 さっき下の階で押したときよりも音量は小さいものの、 やはり普通のインターホンよりは音量が大きい気がする。 <ピンポーン> 出ないし、部屋にいる様子もない。 <ピンポーン、ピンポーン> 続けて僕も2回インターホンを押すが出ない。 <ドンドン> どうせ出てこないし、いないとわかっているだろうにキノシタがドアをノックする。 「いないね」 キノシタが開かれないドアを見ながらつぶやいた。 「うん、もういいじゃない。意外と週末の練習にふらっと現れたりするんだよ。 それまで何回か携帯にかけてみれば?」 僕は今日一日の疲れが一気にきて早く家に帰りたかった。 早くシャワーを浴びたいし早くエアコンの効いている冷たい部屋に帰りたい。 「そうだね。もうどうすることもできないよね」 キノシタは力なくそう言って階段へとゆっくり歩き出したので、 僕も後ろに続いて歩き出した。 すると、階段を一人の男が駆け足で上がってきた。 男は20代後半だろうか髪が長く、 黒い細身のノースリーブにスキニーデニム、 レザーのブレスレットとドクロのネックレスと使い込んだウォレットチェーン。 いかにもロック好きって感じの男だ。 細い階段で交差することが出来ないので僕らは男が上がるのを待っている。 (といっても駆け足で上がってきているのでたいして待ってはいないのだが) 男は軽く僕らに会釈をして、階段を上がってすぐの『彼女』の部屋のインターホンを押した。 1度鳴らして出てこないとわかるとインターホンを連打してドアを何度もノックしている。 顔の表情は長い髪の毛ではっきりとこっちからは見えないが、 なんとなく慌てているようにも思える。 僕は階段を降りたかったがキノシタは男を黙って見ている、 狭い階段なのでキノシタが降りなければ僕も降りられない。 僕はキノシタを軽く押したがキノシタは1歩も動こうとしない上に、 「ゴトウさんの知り合いですか?」と男に尋ねてしまった。 もういいじゃないか。 僕は言葉に出したかったが疲れて言葉にならなかった。 男がこっちを向く。 想像通り慌てた様子で少し苛ついているのがわかる。 「あぁ。おまえらも?ゴトウの知り合いか?」 「はい、ゴトウさんに連絡がつかなくて・・・・・・」 「そっか・・・・・」 男はポケットに両手を突っ込んだまま黙っている。 「あのー、そっちも連絡つかないんですか?」 キノシタが尋ねても男は頷くだけ黙っている。 この男は『彼女』の恋人? それとも友達?元彼?同じ歳くらいに見えるけど兄弟? 僕は疲れた頭でぐるぐると想像を巡らせていた・・・・・もしかして! 一瞬、言葉にすべきか迷ったが思いついてしまったことに歯止めが利かない、 これも暑さのせいなのだろうか。 夏の暑さは人を微妙に狂わせる。 だとするなら、超常現象の1つと言っても過言ではないのかも知れない。 僕は口を開いた。 「あのー、もしかして昨日の夜中に『彼女』からメールが来ませんでした?」 僕の想像は的中して、男は大きく目を見開いて話し出した。 もう少しで陽が落ちて少しは涼しくなりそうだ。 |