『彼女』の住んでいる(はず)のアパートは最寄りの駅から徒歩20分。 新しくも古くもないどこにでもありそうなアパート。 アパートの名前は「グルーヴァーズ」。 教えてくれたバンドのメンバーも「THE GROOVERS」というバンド名と一緒なので憶えていたらしい。 (住所も正確に憶えていてくれたらもっと良かったのだが) このアパートには1階に2つ、2階に2つの部屋がある。 そのうち1階の1つの部屋はドアノブに入居者募集の紙が付いているので、 この部屋ではないことが容易にわかる。 残る3つのうちのどれかが『彼女』の部屋だ。 どの部屋も表札らしきものは見えない。 そして、相変わらず『彼女』に電話をしても繋がらない。 キノシタととりあえず1階の入居者募集の紙が付いていない方の部屋のドアの前に立ってみる。 「ホンマくん、とりあえずピンポン押してみよっか?」 「そう・・・・・だね、それしかないかな。キノシタくん押しなよ」 キノシタはインターホンをそっと押した。 完全に予想通りのピンポーンという音が予想以上に大きな音で鳴る。 ドアがバタンと強く開いて、出てきたのは40代くらいの男の人でなんだか酒臭い。 「はい・・・・・」 男は白いランニングにトランクス、体格もがっしりとしていて筋肉質。 角刈りで無精髭を生やしていて左腕にはタトゥーというより刺青といった方が近いものが入っている。 酒臭くて無愛想だし、明らかに関わりたくない部類の人だ。 「すみません、間違えました・・・・・」 ここは、キノシタよりも先に僕が喋った。 無言でドアがバタンという音とともに強く閉まる。 僕とキノシタは男の部屋から離れてアパートの前に戻った。 「なんで、ホンマくん『彼女』の部屋を聞かなかった?」 ほんとにキノシタも勝手な男だ。 「あの状況で聞けるわけないじゃないか!」 「まぁ、そうか・・・・・」 わかってるんだったら、いちいち言うなよ。 でも、これで2階の2部屋のどちらかが『彼女』の部屋ということになる。 確率は1/3から1/2になったわけだ。 そんなことを暑さでやられそうな頭の中で考えているうちに確率はさらに変動した。 2階の奥の部屋から30代後半の女の人と小学生の低学年くらいの男の子が出てきた。 これから夕食の買い物に行くような様子で僕らの横を楽しそうに会話しながら通り過ぎて行った。 『彼女』の部屋は階段を上がってすぐの部屋だ。 僕とキノシタは無言で手摺りの錆びた階段を上った。 |