僕らは端っこの方にちょこんと建っている旅館を見つけた。 つげ義春の漫画に出てきそうな昭和の香りがぷんぷんのおんぼろ旅館。 洗濯物がこの時間になっても干されたままになっていて風になびいている。 僕らは車から降りて横開きのドアを開けた。 ドアは立て付けが悪いようで開けたはよいが、 なかなか閉まらずキノシタは閉めるのに苦戦している。 「は〜い」 ガタガタとドアをいじっている間に旅館のおばちゃんというかおばぁちゃんが出てきた。 「すみません、予約とかしてなかったんですけど部屋は空いてますか?」 キノシタがドアを直しているので僕がおばちゃんに聞くことになった。 「1泊でしょ?空いてるよ。」 「1泊いくらですか?」 「食事の用意ができないから一人3000円でいいよ」 「それじゃあ、お願いします」 バタン、交渉がまとまったとこでキノシタの直していたドアもようやく閉まった。 「ところでねぇ、あんたらより4、5歳くらい年上の女の子を見なかったかい?」 僕とキノシタは目を合わせた。 「もしかして、その女の人『ゴトウ』っていいます?」 「あら、知り合いなのかい?」 再びキノシタと目を合わせて客室にも入らずに、 僕らはすごい勢いでおばちゃんに『彼女』についての話を聞き出した。 風が強くなってきて表の洗濯物がバタバタと音をたてている。 |