僕らは再び車に乗り込み小高い丘というか山道を登っていた。 道が悪くて車の揺れが激しくて普段なら気分が悪くなるところだが、 そこまで頭も体もまわらない。 ただそんな状況でも暑さだけは感じる。 旅館の辺りは海も近いので風があって涼しかったのだが、 山道を登るに連れて風もなくなり蒸し暑くなってくる。 僕らは間違えなく『彼女』に近づいている。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 旅館のおばちゃんの話では『彼女』はおとついの昼過ぎに旅館にチェックインしている。 (チェックインといえる程立派な旅館じゃないんだけども) 『彼女』はおばちゃんに夜景が見えて静かなところはないのかと聞き、 おばちゃんは所有する小屋(何年か前までそこに住んでいたようだ)があると教えている。 そして、そこで2泊させてくれないかとおばちゃんに頼んでいる。 この辺が唐突な感じでわかりにくかった。 なぜ、おばちゃんは見ず知らずの人に小屋を貸したのか? 『彼女』はギターを持ってきていて他の客に迷惑になるとか、 誰もいないところで一人でのんびりしたいとか適当(かどうかはわからないけど)な理由をつけて、 おばちゃんに頼み込んだらしい。 おばちゃんとしても料金は貰えるわけだし、 問題を起こすような人にも見えなかったからすんなりと了解した。 『彼女』はタクシーで小屋へ向かった。 だが、約束の日=今日になっても『彼女』が来ないので心配していた。 そこに『彼女』を探しにやってきた友人、つまり僕らが現れた。 おばちゃんも警察沙汰にはしたくないし運転免許も持っていない。 僕らは合い鍵を受け取りその小屋へ向かった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 外灯もない田舎道なので、あまりスピードも出せない。 空にはたくさんの星が見える。 山道を登っていくと星に近づいているような気になるが、 星には決して近づけずに一定の距離を保っている。 でも、僕らは『彼女』には近づいているはずだ。 「もう少しだね」 「あぁ。もう少しだ」 |