「それだけの理由で死んだって思ったの?」 「いや・・・・・そうなんだけど、違うんだよ。 上手く言えないんだけどそんな雰囲気だったんだよ」 「雰囲気だけ?」 「だって風の音がすごく聞こえてきてビルの屋上にいるような感じだったし、 声も暗かったし、掛けなおしても繋がらないし、真夜中だったし・・・・・」 「くだらない。もう俺帰るわ」 馬鹿馬鹿しい。 朝の6時から彼の想像、というより妄想で起こされてここまで呼び出されて、 このクソ暑い日にこんな格好させられて・・・・・ 僕は来た道を引き返そうと振り返って急ぎ足で歩き始めたが、 彼が小走りに近づいてきて僕の腕を掴んだ。 「頼むよ、『彼女』の家まで行ってみようよ」 彼の目は少し潤んでいる。 僕は彼の手を振りほどいて言った。 「死んだとかっていうのは君のじゃないか! それにそんなに確かめたいのなら他のメンバーに頼めばいいじゃないか!!」 「もうとっくに頼んだよ!!」 彼は今にも泣きそうな顔で続ける。 「でも、ここに来たのは君だけなんだよ」 そりゃあ、そうだろう。 僕も最初から詳しく知っていたらここに間違えなく来ていない。 僕は黙った。 彼も黙っている。 蝉の鳴き声が聞こえる。 もしかしたらここには蝉なんて実際にはいなくて、 想像の中で鳴き声が聞こえているだけかも知れない。 ギラギラした太陽が僕らを照りつけて僕の背中を汗が滑り落ちていく。 彼も鼻の頭に汗をかいている。 彼は僕をまっすぐ見つめている。 蝉の鳴き声が止まった。 長い夏休みの1日くらい彼に付き合っても良いか・・・・・ 暑さのせいで出した答え。 「わかった、もうここまで来ちゃったし付き合うよ」 彼は潤んだ目で笑った。 「ありがとう」 |