真夏にプリン

2章「夏のぬけがら」

(1)「夏のぬけがら」


バンドで使っている練習スタジオは駅から歩いて10〜15分くらいの所にある。

このスタジオはエアコンもないし狭くて汚いが、
料金が安いことで有名でこの時間から全室埋まっていた。

僕は全身黒いものを着ているせいで半端ない汗をかいている。

これでベースの男が遅れて来ようものなら発狂していたかもしれないが、
スタジオの入口の所に立っている姿が見えた。

彼は古着の水色のTシャツにSILASの八分丈のチノパンといつもと同じラフな格好で、
ペットボトルのコーラを飲んでいた。

「おはよう」

この暑い日に全身黒で統一している理由がよくわからなくなった僕は、
小さく手を挙げて「おはよう」と挨拶を返した。

「早速なんだけど、これ見てよ」

彼は自分の携帯を僕に渡した。
携帯の画面に表示されているのは『彼女』からのメールだった。

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[夏のぬけがら]

焼けた砂浜を1人歩いてる
焼けた砂浜が何度も尋ねてる

燃えているのは太陽なのかな?
終わらない夏はどこにあるのか?

波はここまでは届かない

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「これは『彼女』が作った新しい曲の歌詞?」

「たぶん。このメールの後に『彼女』から電話があったんだ」

「なんて?」

「聞き取りづらいくらい小さな声で、これが最後の歌詞になると思うって」

僕は・・・・・僕は呆れた。