サーターアンダギーの憂鬱

6章「女の子になった男」


女の子の質問に主人も考えている。

僕は主人の出す答えが僕の考えている疑問の答えになるような気がして、
女の子以上に主人の答えを待っている。

3〜4歳の子供よりもドキドキして答えを待っているとはなんとも情けない話だ。

主人は優しく答えた。

「穴のないドーナッツだってあるんだよ」

僕が愕然とした。
それじゃあ子供の答えにはなっても僕の答えにはならないじゃないか!

本当に勝手なのはわかっているのだが、それじゃああまりにも期待はずれだ。

僕の気持ちが伝わったかのように女の子は主人に聞いた。
「じゃあ、どうして穴のあいてるのとあいてないのがあるの?」

僕は心の中で女の子に拍手をしていた。

よくぞ聞いてくれた!
君は将来人のことを思いやれる立派な大人になるよ。

主人は考えている。

今度こそ頼むぞご主人・・・・・

主人は口を開いた。
「じゃあ、穴のあいているのとあいていないのどっちが好き?」

主人は女の子に聞いた。

「穴のあいているやつ」女の子は即答した。

僕も同じ意見だ。
答えに期待しすぎて僕はあの女の子になった気分だ。

「そうだねぇ、穴のあいているやつの方が格好良いからね」

主人は続ける。

「でも穴のあいていないやつだって、格好悪いけど良いところがあるんだよ」

僕は瞬きを忘れるくらい、
主人の一言一言を逃すまいと真剣に聞いている。

「愛情だよ。穴のあいていない分愛情が詰まっているんだよ」

女の子は理解したのか理解していないのか
「そうなんだー」とだけ答えて美味しそうにドーナッツを食べ始めた。

少なくともその答えで僕は十分だ。

僕は僕に戻った。

ありがとう、ご主人。