サーターアンダギーの憂鬱

7章「まとめる男」


僕は唐突に降ってきた答えをまとめている。

穴に憧れるサーターアンダギー、これが今の僕だ。

そして僕は穴のあいたドーナッツに憧れるくらい、
どうしようもなくて無意味な『退屈病』に病んでいた。

自分にないものに憧れることは仕方のないことなのかもしれないけど、
自分にあるもの・自分の現状をしっかりと見つめて認めることも大事なことだ。

僕の人生はサーターアンダギーのように不格好かもしれないけど、
見つめ直すとたくさんの愛情で作られているはずなんだ。

『吉田くん、穴のないドーナッツだってあるんだよ』
その言葉はきっとそういう意味だったんだ。

ドーナッツは必ず穴があいているとは限らない。
穴のないドーナッツだってあるんだ。

突然のことで理解はしたがまだ上手くまとめることができない。

だが、僕はもう十分だ。

僕はサーターアンダギーで十分だ。

その時先生がやってきた。

もうカウンターに女の子の姿はない。

僕は先生が席に着くなり答えがわかった興奮を抑えきれずに、
「先生の言葉の意味がようやくわかったんですよ」と言った。

「なんだね、それは」

「僕は穴に憧れるサーターアンダギーなんですね」

先生は無言だ。
ちょっと考えた後、何を思ったか原稿用紙を取り出した。

「先生、それは?」

「原稿用紙だよ」

「いえ、そうじゃなくてなぜ原稿用紙を出すんですか?」

僕はあわてて先生が僕に言った言葉、
『吉田くん、穴のないドーナッツだってあるんだよ』について説明した。

すると先生は笑顔こう言った。

「なるほど、そうかそうか。その答えが『穴に憧れるサーターアンダギー』ってわけだね。
じゃあ私がもっとわかりやすくまとめてあげるから話してごらん」

明らかにネタを思いついた時の笑顔。
ネタを書く原稿用紙。
先生の『なるほど』といった時の何かを隠すような口調。

間違いない。

僕に唐突に降ってきた答えも、
悩まされてきた『退屈病』も間違えなく・・・・・・

「さぁさぁ、話してごらんなさいな」

先生にネタにされる!


〜おしまい〜

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