あれから私は毎日毎晩、姿の見えない魑魅妄想(ちみもうそう)と戦っている。 鈴木舞と話せば宮永里奈の機嫌が悪くなり、 宮永里奈と話せば鈴木舞の機嫌が悪くなっている気がする。 そして、どちらも私に好意があるように思える。 もちろんそれを確かめる術もないのだが、 毎日毎晩、それを考えている。 『定理に基づく理屈なんてものは私にとっては味が無くなり捨てられたガムにしかすぎない』 だから私は何事も疑って生きてきた。 けれど、このように定理がまったく無い場合にどうすることも出来ない私は何なのだろう? 今まで掴んできた真実や本質なんて何の役にも立たなかった。 『味が無くなり捨てられたガム』とは私自身なのかも知れない。 味の無くなったガムを吐き出して新しいガムを噛むような感じで、 私が変わらなくては彼女たちの気持ちを確かめることなんて出来ないと思う。 私の中の魑魅妄想(ちみもうそう)とはもしかすると世間一般で言う「青春」というものなのかも知れない。 最も嫌いな言葉なんだけどな。 私は結局のところ、鈴木舞と宮永里奈どちらが気になるのだろうということを考えた。 すると、考えることもなく顔が浮かんできた。 それから私はその女の子と手を繋いで公園を歩いているところを妄想した。 こうやって妄想することも傲慢なことなのだろうか? 私はポケットから新しいガムを開けて口に放り込んだ。 「くちゃくちゃ」という音が響く。 (おしまい) |