サーターアンダギーの憂鬱

4章「考える男」


家に帰ると食後には、もちろん待ち構えていたかのように
妻の笑顔とサーターアンダギーがでてきた。
人の気も知らないで妻は「美味しい?」なんて子供達に聞いている。

「上手にできたから油っぽくないし、
 揚げているうちにちゃんと1ヶ所割れてチューリップみたいになってるでしょう」

妻は終いにはちょっとしたトリビアまで披露している。

人の気も知らないで・・・・・

そして僕は今一人、居間でサーターアンダギーを人差し指で転がしている。

「後でお酒を飲みながら食べるよ」と言って上手いことかわしたのだ。
目の前のテーブルにはサーターアンダギーと缶ビールが置かれている。

妻はというと疲れたのか子供達と先に寝ていて居間には
僕と天敵のサーターアンダギー。

僕は人差し指で転がしながら酔った頭で色々考えている。

いつから「退屈病」にかかってしまったんだろう?

別に僕の人生に悩みや不幸があるわけじゃない。
端から見たら幸せそのものであるはずなのになぜなんだ?

考えても考えても答えが出ない。

僕は何年か前の先生の言葉を思い出していた。

『吉田くん、穴のないドーナッツだってあるんだよ』

あの時先生はなぜ意味を教えてくれなかったんだろう?
あれから何年も経ったのにまったく意味がわからない。

先生が言うからには絶対に意味があるはずなのだ。

結局、答えのでないまま僕は一口だけサーターアンダギーを食べて眠った。

僕はこのサーターアンダギーみたいに自分が不細工に思えて嫌になる。