サーターアンダギーの憂鬱

2章「憂鬱な男」


調べて資料を作るのにそう時間はかからなかった。

サーターアンダギーとは小麦粉・砂糖・卵で生地を作り、
直径3cmぐらいのボール型に丸めて、低めの温度で揚げたシンプルな沖縄版ドーナッツ。
大きさはテニスボールぐらいから一口サイズまで様々。

(そういえば物産展か何かで見たことがあるな)

砂糖を使うことから贅沢品とされ、昔も今でも十三祝いや還暦などのお祝いの席には欠かせないお菓子。
結納の時には「カタハランブー( 沖縄の天ぷらの衣だけ )」や「松風(ピンクのせんべい)」と一緒に出される。

沖縄の方言で、「サーター」は砂糖 「アンギー」は揚げ物、テンプラという意味。

どこをどう調べても『ラウドネス』の文字は当然出てこなかったし、
『ロック』という文字も出てこなかった。

資料が出来上がった頃には先生も帰宅しており、
電話をすると明日でよいということなので僕は早めに帰宅した。

家に帰ると子供達が出迎えてくれた。

上の子は男の子で6歳、下の子は女の子で3歳になる。
出張が多いので子供達と毎日顔を合わすのは素直に嬉しい。

子供達の後に妻も出迎えてくれる。

外から見ると文句なしの典型的な幸せな家庭といった感じだろう。
この幸せにも「退屈」を感じ始めていることは誰にもバレていないはずだ。

夕食を食べながら僕はいつものように今日あった出来事を妻に話した。
話したいから話しているのか義務として話しているのか時々わからなくなる。

「サーターアンダギー?NHKの朝ドラでやってたやつでしょ。」

「なんだかそうらしいね」

「あれって家でも割と簡単に作れるはずだよ、明日作ってみようかなぁ」
妻はなんだか乗り気だ。

「あぁ、楽しみにしてるよ」
僕はそう答えたが実際は憂鬱だった。

写真でも見たが、どうにもあの手作り感まるだしの形が好きじゃないし、
手作り感まるだしだろう味もどうも期待できない。

僕は手作り感が苦手だ。

なんとなく安っぽい愛情の押し売りみたいな感じがしてしまうのだ。

手作りのお弁当、おにぎり、マフラー全て苦手だ。
どちらかというと妻は昔から手作りのものが好きなように思える。

疲れてしまう。

僕は憂鬱になっているのを隠すようにいつもよりも早く寝た。
妻はというとリビングのパソコンでなにやらサーターアンダギーのレシピを調べている。

明日が憂鬱だ・・・・・