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サーターアンダギーの憂鬱

1章「わからない男」


ここ何日か僕は古い5階建ての雑居ビルの2階と3階に入っている本社に、
スケジュール調整等の事務仕事のために通っている。

だが実際はたいした仕事ではない。
当分のスケジュールは決まっているし細かい打ち合わせも終わっている。

別に僕の仕事が早いわけでもなく、
担当の落語家の先生に入ってくる仕事というのが特別減りもしないし増えもしない状態で、
長年継続している仕事が大部分を占めるのでとくに打ち合わせもいらないのだ。

「じゃあ、いつものように」という一言で全て片付いてしまうといっても過言ではない。

だから決められた時間から時間までをそれらしく働いて帰るだけ。

上司に「普段は地方公演などで出張が多いので、たまにこういう日があっても良いだろう」
なんて言われる事もあるが『退屈病』に感染している僕としては逆に何だか落ち着かない。

「吉田くん」

僕を呼ぶ声がして振り返った。
先生だ、僕が担当している落語家の先生。

「ちょいと頼みがあるんだが・・・・」
「わかりました。打ち合わせ室が空いているんでそちらに行きましょう」

私の担当しているこの落語家の先生の名前は伊佐坂門戸。

ちょっと前までの落語ブームの頃は結構売れてて忙しかったが、
落語ブームが終わった今では小さな仕事を数多くこなしている。

同業者の間では変わり者というレッテルを貼られているが、
(本人は気付いているのだろうか?)
僕は先生の事を嫌いではない。

むしろ憧れに近い感情を持っている。

上手く説明できないが、
先生は表現する側の人間としての責任感や使命感を誰よりも大切にしていて、
誰よりも孤独が似合う人だと僕は思っている。

普段何を考えているのかわからない部分も表現される側の人間、
つまり僕にとっては憧れてしまう要素だ。

しかし最近先生の様子がどうもおかしい。

先月の京都での地方公演からだろうか。
それからというもの、先生は何かに取り憑かれたように新しいネタをたくさん作っているようだ。

まだ発表の機会がないので何とも言えないが、
京都での新ネタはすこぶる好評だった。

私は狭い会議室で先生と向かい合わせる形でパイプ椅子に座った。
先生は煙草をくわえながら頭を掻いている。

「どうしたんですか先生?」

なかなか喋り出さない先生に耐えきれず僕の方から尋ねた。

「実は吉田くん、調べてもらいたいモノがあるんだが・・・・・」
「なんですか?」
「サーターアンダギーだよ」
「サーターアンダギー?!、新しいバンドですか?」

僕は若かりし頃バンドをやっていたせいもあって、
なんとなく『サーターアンダギー』という名前でラウドネスみたいなハードロックバンドを想像していた。

先生は苦笑して、
「違うよ吉田くん、沖縄のお菓子だよ」と言った。
僕は少しあわてて言った。
「あぁ、わかりました。ネットで調べて資料をお作りしますよ」

ほんとに先生はよくわからない。

お菓子で恋愛ネタ?
しかも八つ橋の次はサーターアンダギー?

チョコレートでも飴玉でもクッキーでもせんべいでもいいじゃないか。
なぜにサーターアンダギー?
ほんとに先生はよくわからない。