恋は八つ橋

(おみやげ〜夜も八つ橋)


私、伊佐坂土門は楽屋を片付け終わって会場を出ようとしている。
荷物と言っても着物以外はたいしたものはない。
ただ今日は土産屋で買った八つ橋が入った紙袋が片手をふさいでいる。

いつものようにもう少しするとマネージャーの吉田がお約束のように今日のネタを褒めて、
<打ち上げを兼ねて飲みにでもいきましょうよ>なんて言ってくるに違いない。

吉田が来た。

「先生、今日のネタ新しくってほのぼのして良かったです、感動しました。
学生達と先程話したんですが先生のネタで持ちきりでしたよ。」

長年の付き合いになるが、いつも吉田はオーバーだ。
しかも今日はより一層オーバーだ。

「そうかい?お世辞でも嬉しいよ。」

私は疲れていたせいもありそっけなく答えた。

「あれ?先生はお疲れのようですね。では先にホテルに戻ってお休みになってください。
僕はせっかくの京都の夜なのでこれから飲みに行ってきますんで」

そう言うと吉田はすぐに会場の玄関を出て1台のタクシーを停めた。

「さぁさぁ、先生どうぞどうぞ」

私は言われるままタクシーに乗り込んだ。
タクシーは吉田に言われた目的地のホテルに向かって走り出し遠くで吉田が手を振っている。

なんだかなぁ。

私は八つ橋の入っている紙袋を膝の上に置いた。

「やれやれ、夜までこいつと一緒かいな」

お後がよろしいようで。


〜おしまい〜

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