恋は八つ橋

5章「八つ橋は八つ橋」


類は友を呼ぶとは聞きますが、これにはさすがの私も驚きました。
八つ橋が八つ橋を呼ぶとはなかなか聞きませんでねぇ。

さらに話を聞いてみると『八つ橋娘』も『八つ橋男』も同じ八つ橋タイプ。
2人とも本来の自分らしさ、つまりあんこの部分を出せないでいるんです。

食べる側がいてこその八つ橋。

八つ橋同士じゃどうにも進展なんてありゃしないのでやんす。

「進展がないのも困っているんですが離れたくないのです」

そりゃあみなさん恋をすれば当然だと思うでしょう。
ところが違うんですよ。
『八つ橋娘』と『八つ橋男』、お互いに大事なあんこの部分を出さずにくっついてしまっているんです。

よくお土産でもらった八つ橋の箱を開けて、さぁ食べようとしたら隣の八つ橋とひっついていた何てコトございませんか?
まさにあれですよ、あれ。

あんこを引き立てる団子生地が邪魔をしつつも2人をくっつけているんですよ。

「どうしたら良いですか先生?」

果て果て困ったもんです。

無理にはがせば団子生地が破けてしまいます。
団子生地が破けるということは『八つ橋娘』と『八つ橋男』の2人の人格を変えることになってしまい、
互いの魅力を半減させてしまいます。

誰しも団子生地の破けた八つ橋と破けていない八つ橋があったら破けていない方を選ぶでしょう。

それにせっかくの素晴らしい個性を潰すことはあってはいけないことでございます。

とはいったものの、この「流浪の恋愛伝道師・伊佐坂門戸」にしてもその日は答えがでませんで。

私といえばその日から何度頭のゼンマイを回して切れて、回して切れてを繰り返して
『八つ橋娘』と『八つ橋男』のことに頭を悩ませたでしょう。

恋は八つ橋・・・・・
2人は八つ橋・・・・・
八つ橋は八つ橋・・・・・そうなんです八つ橋は八つ橋なんです!

私は『八つ橋娘』を呼びました。

「答えがでましたよ。」

「ほんとですか先生?どうすればいいんです?」

藁にもすがる思いで『八つ橋娘』も私に聞いてきます。

「八つ橋は八つ橋でやんすよ」

『八つ橋娘』はきょとんとして私を見つめるばかり。
そんな『八つ橋娘』に私は尋ねます。

「ほんとに彼は『八つ橋男』なんですね?」

「はい、『八つ橋娘』のわたしにはわかるんです。」

「じゃあやっぱり、八つ橋は八つ橋でやんすよ」

「それは先生どういった意味ですか?」
再び『八つ橋娘』はきょとんとして私に尋ねました。

私は一つ咳払いをして答えました。

つまり『八つ橋娘』も『八つ橋男』も八つ橋同士。
だから同じ穴のムジナ、相性が良いはずなんですよ。

くっつくきっかけさえあれば絶対に上手くいくはずなんです。

ただ、進展するには団子生地が破かなくてはいけない。
破くということはあなた達自身を失うことになりかねます。

そこが問題でしたよね。

私も悩みましたよ。

でも破いちゃいましょうよ。

「で、でも先生それは・・・・」

「大丈夫でやんすよ、八つ橋は八つ橋って言っているでしょ。」

どちらかの団子生地が破けてもどちらかの団子生地が残っています。
それで包み込んであげればいいのです。
形はどうあれ、あの団子生地とあんこがあれば八つ橋は八つ橋でやんすよ。
どちらかの足りない部分を補って下さいな。

お互いに八つ橋なんだから相性も良いんですよ。

これからはどちらかの団子生地を2人で共有すれば、
互いの魅力を失わずにずっと一緒にいれますよ。

「ありがとうございます、先生」

といったところで私の演目は終わらせて頂きま・・・・・

「え?続きが気になる?2人はどうなったのかって?」

私は座布団に座り直して咳払いを一つ。

「そんなことを聞くのはお客さんヤボってもんですよ。」

私は喉の渇きを抑えて続ける。

「どうしても気になる方は、帰りに八つ橋を買って八つ橋に聞いてみて下さいな」

客の幸せそうな笑い声が微かに聞こえる。

「それじゃあ、イササカ強引でしたが私の演目を終わらせて頂きます。
長丁場、どうもありがとうございました。」

--------------(拍手)--------------

私は立ち上がり舞台袖へと帰って行く。
いつもより拍手の音が大きく聞こえたのは気のせいだろうか?