私はミルフィーユ

4章「女は甘いものが好きなのだ!」


毎週火曜日に会う彼とはいつもどこかのカフェで待ち合わせて軽く食事を済ませ、
ホテルに行くというのがここ何年もの流れだ。

私が着くと彼はエスプレッソを飲みながら煙草を吸っていた。

「待った?」

「いいや、そうでもないよ」

私は彼と向かい側に座りメニューを手に取る。

「何にする?」

「いや、俺は今日お腹空いてないからコーヒーだけでいいや」

「じゃあ私はケーキセットにする」

彼と他愛もない会話をしている間にコーヒーとたくさんのケーキが運ばれてきた。
私は迷うことなく、たくさんのケーキの中からミルフィーユを選んだ。

「早苗はミルフィーユ好きだよなぁ」

「うん。形も綺麗だよね」

「確かにそうだけど、この繊細な形が崩れたらこれ食べる気がしないよなぁ」

「まぁそうかもね」

「そういえば知ってる?」

「え?」

「ミルフィーユって正確にはミルフイユって言うんだよ。ミルが『千』フイユが『葉っぱ』」

「ってことは『千枚の葉っぱ』ってこと?」

「うん。何層にも折り重なってるパイ生地を焼くと葉っぱが重なったようになるからなんだって」

「へぇ〜、そうなんだ」

私は彼の話を聞きながらミルフィーユにフォークを刺して食べ始める。

「でもって、普通ミルフィーユって言うけど実は『一千人の娘』って意味らしいよ」

彼は煙草を何本も吸いながらミルフィーユについてのウンチクを語っている。
私は適当に相づちを打ちながらミルフィーユを食べる。

どうして男の人はこんなにウンチクが好きなのだろう?

私はミルフィーユの繊細な形を何度も確かめるように眺めながら、
ゆっくりとミルフィーユを食べている。

私は甘くて繊細な形のこのミルフィーユになりたい。