サーターアンダギーの憂鬱

3章「憂鬱な男とわからない男」


僕の憂鬱は予想以上に的中した。

家に帰る前にサーターアンダギーを食べるハメになったのだ。

資料とデパートの地下で購入したサーターアンダギーを先生に届けたところ、
「吉田くん、君も一つ食べなさいな」と言われて断れずにいる。

写真で見たまんまの手作り感まるだしの不格好なサーターアンダギー。

男二人、狭い会議室でサーターアンダギーを食べている様子は他の人が見たらどう思うのだろう?

僕はそんなことを考えつつも、できるだけ小さいやつを探して食べた。
先生の誘いを断っても良いのだがこれも仕事だ。

「ふむふむ・・・・・、ふっくらしてて美味しいじゃないか、暖かみがあるな」

先生は美味しそうに食べている。
独身で一人暮らしが長いからこういうのが美味しく感じるのだろうか?

「僕はあまり好きじゃないですねぇ、これ」

僕は正直に答えた。
嘘の感想を言うのも仕事上良くない。

「僕はやっぱりまず見た目がダメです。でこぼこして綺麗な丸じゃない」

先生は頷きながらなにやらメモ帳に書き殴っている。
僕がそれを覗こうとすると先生は、
「いやいや気にせず続けてくれ」と言ったので覗くのは諦めて僕は続けた。

「味も売っているドーナッツよりもモッサリしているし、ヒネリがない」

「そこがいいんじゃないの?手作りっぽくて?」

「いまいち手作りって苦手なんですよ。」

先生はもの凄い勢いでメモをとっていた。

「ありがとう吉田くん、助かったよ。また頼むと思うけどその時もよろしく」

先生はぶつぶつ言いながら打ち合わせ室から出て行った。

つくづくよくわからない人だ。
あのメモが本当にネタになるのだろうか?
表現される側の僕にとってはとうてい理解できることではないのだ。

僕も若かりし頃バンドをやっていて、
表現する側の人間になりたかったが無理だった。
自分で自分の才能の無さに気付いてしまったのだ。

そんなことを何年か前に先生にお酒を飲みながら話したことがあったが、
その時先生は僕にこう言った。

今でもはっきりと覚えている。

「吉田くん、穴のないドーナッツだってあるんだよ」

よくわからない。
その時も意味を聞いたが教えてくれなかった。

なんだかなぁ・・・