サーターアンダギーの憂鬱

(プロローグ〜『退屈病』の男)


僕の名前は「吉田慎二」、
二人兄弟の次男だから「慎二」。

名字もありきたりで名前にもひねりがない。

そんな男だ。

僕は結婚していて子供が2人いて、
ごく普通のありきたりの生活を送っている。

妻とはいわゆる「できちゃった婚」で一緒になったのだが、
別にこれといった不満もないし、仕事に関してもこれといって不満もない。
不満がないということは一見幸せそうに思えるがそんなことはない。

退屈にやられて全てのことに関心が持てなくなってしまう。
僕はそれを勝手に『退屈病』と命名しているのだが、
僕は半分『退屈病』に感染していると思っている。

そんなつまらない男だ。

そんなつまらない僕は三流芸能事務所でマネージャーとして働いている。

そもそも今の会社に就職したのも、
若かりし頃やっていたバンド仲間の知人の紹介で入った。

紹介してくれた同じ歳の男はオリコンランキングでも常連の女性歌手のマネージャーで、
僕は落語家(と言っていいのか微妙だが)のマネージャー。

どう考えても僕の方がつまらない。

かといって適当に仕事をこなしているわけではない。
仕事には自分なりの情熱もあるし、誇りを持って仕事をしているつもりだ。

だが、その自分なりの情熱と誇りが僕を「退屈」にさせているようにさえ最近は思うのだ。