恋は八つ橋

前説


私の名前は伊佐坂門戸、もちろん芸名で本名はどこにでもある他愛もない名前だ。
(伊佐坂門戸という芸名もどうかと思うが)
今年でもう46歳になるが結婚はしていない。

「職業は何ですか?」という質問が辛い。
私自身も職業欄に何て書いて良いものか躊躇してしまうくらいで、
『風来坊』なんて書いて怒られた事もあったくらいよくわからない。

私は30歳になった時に今まで10年間働いてきた事務系の会社を辞めた。
小さな会社だったが給料の面においてもまずまずだったし福利厚生もしっかりしていたが辞めてしまった。

1度しかない自分の人生がこのまま退屈に支配されてしまうのが嫌だったのだ。
なんて格好良く今なら言えるが単純に気ままに生きてみたくなったのだ。
だから『風来坊』なんて書いてしまう。

何か目的があって会社を辞めたわけではなかったので私は私らしい生き方を探した。
だが、そんなに簡単に見つかるものではない。
今でこそニートなんて言葉があるが当時はそんな洒落た言葉すら無かった時代だ。

何年間くらい探していたのだろうか?

ひょっとしたら今も探している最中なのかも知れない。

ある日突然、転機は訪れた。

私はその当時有り余っていた時間を消費するために下町の寄席を見に行っていたのだが、
そこであることを思いついたのだ。

恋愛ネタで落語っぽい事が出来ないだろうか?
落語として認められなくても色物として十分いけるんじゃないだろうか?

そのくだらない発想だけで私は今も生きている。

落語ブームもあったおかげもあって私は恋愛小説なんかも書いてみたり、
たまにテレビにもでるようになっていった。

だが、それによって落語家からは完全に色物として見られ続けているのだが、
かといって小説も思ったよりも売れないし、テレビもローカル番組がほとんどだ。

そして、すぐにブームも去っていき、
今の私は中途半端な立ち位置にいる・・・が生活には困っていない。

それが唯一の救いなのだろうか。