私と彼はカフェを出て、今ラブホテルにいる。 平日のこの時間だと広い部屋でも料金も安いので、 私はいつも一番広い部屋を選ぶ。 結局どんなに広い部屋でもどんなに内装が綺麗でも、 することは一緒なんだがやはり気分が大事だ。 それこそミルフィーユの何層にも折り重なってるパイ生地と同じで、 あれがたいして味に影響しているとは思えないが、 あるのとないのでは何かが違う。 私と彼はコトが終わり、 いつものように彼は煙草を吸い、 私はベットの上の方にある部屋の照明のリモコンをいじっている。 一つも窓がない不自然な部屋に灯りを点けたり消したり。 「ねぇ、早苗・・・」 彼が煙草を消して私に話しかける。 「なぁに?」 私はリモコンをベットの上に戻して彼の方を見た。 「なんつうか、言いにくいんだけど・・・・・」 「だから、なぁに?」 「もう別れないか?」 私は彼の思わぬ別れの言葉に驚くよりも、 なぜラブホテルでコトが終わってから言うのかということと、 なぜ疑問形で別れを言うのかということに腹を立てて黙ってしまった。 「うーん、実は好きな人ができて・・・・・」 私の怒りはピークに達した。 「わかったから、出てって!」 彼はまだ何か言いたそうだったが、 着替えて「ごめんね」と小さな声で言ってラブホテルの部屋を出て行った。 私の2年くらいの「女」でいる時間は終わった。 悲しさとか悔しさもないし、虚脱感もない。 ただ一つだけ強く思うこと、 男はいつだってずるい! 私はベットの中で彼の忘れていったメンソールの煙草を吸っていた。 久しぶりに吸う煙草はやけに苦い。 |